“会長就任に寄せて”

 令和5年5月30日の第72回通常総会後の臨時理事会で会長に選任されました四方哲郎です。新任の挨拶として一言述べさせていただきたいと思います。

 当協会は昭和22(1947)年9月に任意団体として発足し、昭和27(1952)年9月に社団法人として認可され、社団法人日本船舶機関士協会として設立されました。

 設立当時は戦後の復興を経て日本経済が急速に発展する時期にあり、舶用機関の革新も高度経済成長の歩みに合わせて着々と進められた時代でした。レシプロエンジンからディーゼル機関への転換、所謂C重油と呼ばれる残渣(低質)燃料油の専焼など乗船中の機関長・士の苦労は並大抵ではありませんでしたが、新たなシステム・新機軸機器への故障対応を通じた機関長・士の改良提案と造機メーカーや造船所の真摯な協力及び改善対応によって機関技術は目覚ましい進歩を遂げました。当協会も機関長・士の待遇改善の提言や造機メーカーとの技術交流会及び提案などを主な活動として諸先輩方が取り進めて来られました。

 その後、主機船橋操縦、機関室E1当直体制、Mゼロ船、高度自動化船(近代化船)、多元燃料船など船舶に関わる技術革新は目まぐるしく、それらに適応すべく我々機関長・士は新しい知識と技術の習得に日々精進してきていますが、そこに少なからず当協会も定款目的どおりの役割を果たしてきていると思います。

 その長い歴史と実績のある日本船舶機関士協会会長の重責に身の引き締まる思いですが、その重責を誇り、正会員並びに賛助会員の皆様の叱咤激励を受けながら当協会の活動の活性化とますますの発展を目指していきたいと思います。

 さて、昨今は特に環境対応がますます厳しさを増し、高度省エネ対策、残渣粗悪油への対応、バラスト水処理装置の運用、NOx・SOx規制に対する低硫黄燃料油対策等に加え、今年より新たにEEXI(EnergyEfficiency Existing Ship Index) 規制、CII(Carbon Intensity Indicator)燃料格付け制度が実施されています。EEXIは船舶の燃費性能を事前に審査する規制で、EPL(EnginePower Limitation)工事を実施した船も多くあります。CII は一年間の実際の燃料消費実績をチェックする制度で、AからEの5段階で評価され、Eまたは3年連続のD評価となった船舶は主官庁に改善計画を提出する必要があります。他方、燃費は気象、海象及び運航状態にも影響されるということも重要なポイントです。

 また、2024年よりEUのETS(EmissionTrading Scheme:排出権取引制度)が海運業界も段階的に組み込まれることが合意されています。GHG(Green House Gas:温室効果ガス)削減対応につきましては技術講演会でもテーマとしており、今後とも機関士協会として発信していきたいと考えています。
 OCIMF(Oil Companies InternationalMarine Forum)の検船報告制度いわゆるSIRE(Ship Inspection Report Exchange)については今年度に2.0 が発効される予定で、PSC(Port State Control)の検船内容もますます厳しくなり、特に乗組員の技量や習熟度を実地検分で確認することに重きがおかれ、技術力の向上のみならず各規則への理解とその対応力、説明力が重要です。

 機関士が荷主や営業対応に主としてあたることも当然のようになってきています。船では外国人との混乗、陸では海外駐在員や外地での新造船建造・修繕船監督など機関長・士として活躍が求められる仕事の幅が益々広がってきています。そのような中、当協会の役割を果たすべく皆様のお力をいただきながら機関士の地位向上、労働環境の整備について発信し、船が魅力ある職場となるよう取り組んでまいりたいと思います。さらに歴史ある協会の会長として社会に貢献すべく努力してまいる所存です。

 今回は新型コロナウイルス感染症の法的位置付けが5類感染症になりましたこともあり、正会員のみではありましたが総会、理事会の後に懇親会が4年ぶりに開催され懇親を深めることができました。コロナ禍で一気に広まったリモート会議や在宅勤務が働き方改革の一環として法整備も含め一般的になってきていますが、やはりFace to Faceで人肌を感じながらコミュニケーションができるようになりましたことは喜ばしいと思います。お酒が好きなこともありますが、仕切りのない居酒屋で皆様と杯を重ね話ができますことを楽しみにしております。

令和5年5月
会 長 四方 哲郎